えん罪事件の真相を広め、裁判支援、在獄者の処遇改善運動をすすめています

「誤判に苦しむ人々を救う各国の取り組み」

誤判に苦しむ人々を救う各国の取り組み   成城大学法学部教授 指宿 信さん

画像の説明

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 6月16日に開かれた「なくせ冤罪 ひらけ再審 6.16市民集会」で、「再審の動向について」と題しておこなわれた、成城大学・指宿信教授の講演の一部を紹介します。
どうすれば冤罪をなくすことができるかについて、誤判防止をめぐる各国の状況を紹介し、日本の刑事司法のあるべき姿を示しています。
 刑事司法という「車輪」を支えるには、3つの「スポーク」(柱)が揃っていることが不可欠です。誤判予防、誤判救済、誤判原因究明の3つです。いかなる国の刑事司法システムも、この3つが揃っていなければ、誤判をなくすことは絶対にできません。

冤罪をなくす3つの柱

誤判の予防

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 一つ目のスポークは、誤判予防です。これまでの冤罪にはたくさんの虚偽自白事例があります。虚偽の「自白」をさせないためには、最初から最後までの取調べの可視化(録音・録画)が必要です。
 イギリスでは1980年代から取調べの録音をしています。ニュージーランドでは、90年代から録画し、オーストラリアも90年代から録画しています。2000年以降、取調べの可視化は世界各国に普及・拡大しています。
 私は、各国の各国の可視化の状況を調査しています。ニュージーランドの警察署を訪問したとき、案内してくれた女性警察官が、取調べの可視化についてこう言ったんです。
 「私たちは、人の秘密を暴かなきゃいけない。だから自分たちが隠しごとをしてはいけないんです」
 これ警察官が言ったんですよ。私は感動しました。建前でかっこいいことを言っただけかもしれませんが、そういうことをスラッと言えてしまうくらい、ニュージーランドでは録音・録画は徹底してます。

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誤判からの救済

 録音・録画の対策をしても、誤った裁判がおこってしまった場合、冤罪の人を救わなければいけません。2つ目のスポークです。
 1992年、ニューヨークにあるカードーゾ・ロースクールで、バリー・シェックとピーター・ニューフェルドという2人の弁護士が、学生を使って始めたのが、イノセンス・プロジェクトです。アメリカでは、お金を払うことができない人の相談を受けるタイプの弁護士事務所をクリニックと呼びます。イノセンス・プロジェクトは、DNA鑑定で無実を証明できる事件だけを引き受けるクリニックの形でスタートしました。
 このプロジェクトが発足してからすでに20年になります。この動きは世界中に拡大しており、私が把握しているだけで、20カ国以上にクリニックタイプのプロジェクトがあります。2012年6月現在292人、死刑囚17人を含む人が、この活動によって救済されています。
 DNA型鑑定で助かった例をひとつ紹介します。1984年、ジェニファー・トンプソンさんという方が、レイプの被害者になってしまいます。その3年後、黒人のコットンさんという方が有罪になります。どうして有罪になったかというと、トンプソンさんがたくさん並んでいる黒人のなかから、コットンさんを指して、「私をレイプしたのはこの人です」と犯人識別供述をしたからなのです。
 ところが、事件から11年後の1995年、DNA型鑑定でコットンさんの無実が証明されました。この冤罪の被害者と犯罪の被害者の2人が一緒に本を出したのです。「ピッキング・コットン」__コットン氏を犯人として識別したという言葉と、綿摘みをひっかけた言葉です。2人は全米で、いかに犯人識別供述が危なく、そして冤罪の原因になるのかということを講演して回っています。
 イノセンス・プロジェクトは民間の取り組みです。では、公的な制度はどういうものがあるのでしょうか。1997年、イギリスは再審の訴えを聞くための独立した行政法人を立ち上げます。刑事再審委員会という組織です。豊富なスタッフと調査権限があります。2011年11月までに1万4000件が審査されて、そのうち458件について、再審を開けという勧告をして、それを受けて裁判所が320件の再審無罪を出しました。
 2009年3月18日、ドナルド・ホジソンさんという方が釈放されて、その後再審無罪を言い渡されます。これは、科学的証拠に関して、日本での科学警察研究所にあたる法科学庁が、虚偽の回答をしたことが、誤判原因だったと指摘しました。イギリスでは、裁判所ではない機関が再審をすべきかどうかを判断しています。

誤判の原因究明

 3つ目のスポークです。どうして誤った裁判がおこなわれてしまったのかを、きちんと考える機会を公的に用意しなければダメです。マスコミやジャーナリストが調査して批判することは、非常に重要ですが、いま必要なのは、公的な中立の立場で独立した原因調査をおこなう機関を持つことなのです。
 カナダでは、ロイヤル・インクワイアリー(王立調査委員会)という独立した第三者機関を作ります。別に王様が関与するわけではなく、カナダはもともとイギリス領だったために、単に伝統的な呼び名です。審査する人は、別の州から呼ばれ、幅広い権限を持って調査活動をします。公聴会を開き、証拠を集め、冤罪の犠牲者に対する賠償額を決定します。そして、誤った裁判に関する意見書を公刊します。
 私は、カナダで最初に王立調査委員会ができたドナルド・マーシャルJr.氏の事件について、ノバスコシア州に行って委員会の活動のようすを調べてきました。
 私の手元に、1500ページに及ぶ報告書があります。私はその調査の詳細が知りたくて、州の公文書館に行ったところ、50巻におよぶ委員会の議事録がすべて残されて、公開されておりました。すでにカナダでは6県の委員会が活動をしています。成果としては取調べの録画制度、検察官が公判前に全面的に証拠開示をする義務を負うこと、先住民に対しては、先住民専用の法廷を作ることなど、数々の改革を促しています。
 ドナルド・マーシャルJr.氏の事件では、真犯人が出てきて彼の無実が分かるのですが、1987年に委員会が設置されて。2年後、報告書が出ます。そこで81項目にのぼる刑事司法の改善意見が出されました。そこでもっとも重要なのが、検察官は、公判前に手持ちの証拠をすべて開示する義務があるという勧告です。これを受けて1991年、カナダの最高裁判所が全面開示義務を承認。「検察の手中にある捜査の成果は、有罪を確保するための検察の財産ではなく、正義がなされることを確保するための公共の財産である」というフレーズを残しました。日本の「検察の理念」に書いて欲しい言葉です。
 このように、誤判を防止して救済し原因を究明する。この刑事司法の輪を支える3つのスポークが揃っていないと、誤判・冤罪をなくすことはできないと思います。

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