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青木惠子さん再審請求

青木惠子さん再審請求

 7月7日に東住吉冤罪事件の朴弁護団が再審請求をしたのに続き、8月7日に青木弁護団が再審請求を大阪地裁に行いました。そこで、東住吉冤罪事件の問題点について、青木弁護団の塩野隆史先生に執筆して頂きました。

東住吉えん罪事件・青木弁護団 弁護士 塩野隆史

第1 はじめに


1.再審請求

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 いわゆる東住吉放火殺人えん罪事件について、平成21年8月7日、既に誤った有罪判決
が確定していた青木惠子さんが、大阪地裁に再審を請求しました。
先日は、乘井弁護士から、本件事件についての新証拠について、主に客観的視点から報
告がありましたので、今回は、虚偽の自白が採取された過程を中心に、本件の問題点につい
て報告致します。

2.本件火災の発生

 平成7年7月22日午後4時50分ころ、当時、請求人青木惠子さん(以下、「惠子さん」とい
います)ら家族の自宅であった大阪市東住吉区内の木造家屋(以下「本件家屋」といいます)
で火災が発生し、同家屋内風呂場で入浴中の女児(以下、「Aちゃん」といいます)」が逃げ
遅れて亡くなりました。この火災(以下「本件火災」といいます)に対し、警察は、本件家屋内
の何者かによる放火ではないかとの嫌疑を持ち、火災発生後直ちに、東住吉警察署に捜査
本部を設置して本格的な捜査を開始しました。

3.任意同行名目での身体拘束と取調、自白

 (1) 平成7年9月10日早朝、惠子さんら家族3人は警察の車に乗せられ、惠子さんは東住吉署へ、朴さんは平野署へ、Bくんは惠子さんの両親の家へ連れられました(この時点では「任意同行」でした)。
 惠子さんは、車中で大声により威嚇され、更に事情聴取にあたっては、任意捜査であることや黙秘権の告知はなく、惠子さんが否認すると、即時刑事が大声で怒鳴り始める状況でした。

 (2) 更に、その後刑事らは、「朴は吐いているぞ」、「全部認めているぞ」などと虚偽事実を告げ、惠子さんは、何を言っても聞いてもらえないと絶望し、自供書を書くに至りました。そして、同自供書作成後、惠子さんは逮捕状を執行され、刑事手続上、任意同行から逮捕に移行したのです。

4.9月11日以後の状況(否認から自白、そして否認へ)

 (1) 翌9月11日、午前9時頃から取り調べが始まり、午前11時40分頃には、当番弁護士が接見しています。検察庁では、午後3時10分頃から内田武志検事が弁解録取に当たりましたが、惠子さんは同検事に対し、自分は犯行を行っていないこと、自供書を書いた理由などを申し述べています。

 次いで、裁判所でも勾留質問がなされましたが、その際にも「事実は身に覚えがありません。警察官から、私が共犯者であると(朴さんが)自白しているとのファックスを見せられて頭がボーッとしていて虚偽の自白をしたのです」と述べ、その旨の調書が作成されています。

 (2) しかし、9月11日に大阪地方裁判所伊元啓裁判官がなした「大阪拘置所を勾留場所とする」旨の勾留裁判に対し検察官が準抗告を申し立て、同地裁松本芳希裁判長が右準抗告を認め勾留場所を東住吉警察署とする旨決定したことで、東住吉警察署の刑事らは、「裁判所は警察の言うことだけを信じる」などと告げ、黙秘する惠子さんに対し、暴言を次々と浴びせました。

 更に9月14日、刑事は「Aが可哀相やろ。なんで助けに行けへんかったんや」などと述べ、更に惠子さんを追い詰めました。惠子さんは、刑事から、「なんで助けに行けへんかったんや」と言われた時、娘を火の中から助けられなかった自責の念に苦しみ続けていたこととも相俟って、冷静に物事を考えて判断できない状態に陥り、このような取調べが続くことは到底耐えられない、Aちゃんの所に行きたい、いっそ死んだ方がましだと考え、刑事の言葉に頷き、再び自供書を作成してしまったのです。

 (3) 取調べが終了し自供書の作成が終了したのは同日午後11時30分を過ぎていました。その後、ようやく10分間という著しく短い接見が認められ(それまでは接見が拒否されていました)、惠子さんは、待っていた弁護人に対し、「やってないです。でも、もういいんです」と犯行を行っていない旨を明確に述べたうえ、それでもやったことにすると告げました。更に取調べが過酷であり、このような調べが続くと精神異常になってしまう旨を訴えたのです。

 そして、約10分の接見が終わり、留置場へ帰ると、覚せい剤犯で留置されていた同房の女性が起きて惠子さんを待っていました。その女性は、虚偽自白をしてしまった旨述べる惠子さんに対し「本当に犯人やったら仕方がないけど、犯人じゃないんだったら、子どもがそんな汚名を着たままじゃかわいそうや。もっと、頑張り」などと励ましてくれました。

 ここに至って、改めて惠子さんは、嘘の自白をしたらBくんや更にAちゃんも悲しむと考え、子どもらの為にも虚偽の自白はしないでおこうと決意したのです。

 (4) 9月15日以後も、担当刑事は、壁に貼ったAちゃんの写真を見ろと命じたり、15分程立たせたりした他、「おまえは(オウム真理教の)麻原か、精神病院に行くか」などと侮辱したり「Bのためにも、早よ、帰ってやらな」などと懐柔しています。

 しかし、惠子さんは、かような取調に対しても否認を続けました。そのため刑事は否認調書を一切作ろうとせず、9月30日に現住建造物等放火、殺人罪について起訴がなされました。また、10月13日には詐欺未遂罪で起訴されています。その間約1か月にわたり、連
日厳しい取調べを受けましたが、9月14日以降、惠子さんは自供や自白を一切していません。

第2 確定判決の問題点(自白評価における問題点)


1.確定判決は弁護人の主張を排斥し、惠子さんや朴さんの「自白」の任意性を認めました。

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 同判決は、自白の任意性に疑いをもたせる事実としては、身体的な強制や有形力の行使に重きをおいていますが、被疑者が取調室において言い分を訴え続けることを断念するのは、身体的な「傷み」「苦痛」に屈する場合だけではありません。むしろ、多くは、身体的な「傷み」「苦痛」ではなく、心の「傷み」「苦痛」によって、いくら弁解しても無駄だと絶望して生まれることが多いのです。それが、真実の犯人であれば、罪を犯したことに対する反省や悔悟という心の葛藤を経て自白に至るのでしょう。しかし、真犯人でない場合であっても、「何を言っても聞いてくれない」「誰も自分の無実を信じてくれない」と絶望し、自白をすることも多いのです。
 
 本件においても、朴さんは、大阪府警の捜査官から「放火だとする鑑定があがっているから放火しかない。犯人はおまえしかない」といった言葉で追及を受け、憔悴して絶望し、混乱の中、自白に至ったのであり、惠子さんは、「どうして娘を助けなかったのか」と責められ、自責の念に苦しむことを利用して追い詰められたのです。

 この点平成20年1月に発せられた「警察捜査における取調べ適正化指針」では、「監督対象行為」として「(ア)被疑者の身体に接触すること(やむを得ない場合を除く)」「(ウ)殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること」が列挙されています。これらが虚偽自白を生み出す問題のある取調べであることは、本件捜査がおこなわれた平成7年から約14年経た今日、ますます明らかとなっています。本件取調べでは、捜査官も認める上記(ア)(ウ)
に該当する行為が存在するのです。

2.本件において、惠子さんの有罪を支える直接証拠は自白だけです。

 しかし、自白は、それ以外の情況証拠(間接証拠、間接事実)と慎重に対照させたうえで、初めて信用性を認めるべきものです。
 しかも、本件自白には秘密の暴露はありません。秘密の暴露は、自白の信用性判断において重要な基準となりますが、本件自白には秘密の暴露がないのですから、その信用性判断は特に慎重に行うべきであったことは明らかです。

 以上を踏まえると、本件は、Aちゃんに対する殺人事件であり、殺害方法は「風呂場の隣室である本件ガレージに、予め給油ポンプによって抜きとりポリタンクに貯めておいた約7リットルのガソリンを撒き、ターボライターで点火して火災を発生させ、入浴中のAを殺した」というものです。

 それゆえ、惠子さんや朴さんが犯罪に関与したのか否か、すなわち、「放火行為」をしたのか否か、自白による放火を裏付ける情況証拠(間接証拠、間接事実)が存するのか否かが最も吟味されなければならない筈です。間接事実・間接証拠は、この点に関してこそ見出されなければなりません。

 虚偽自白とは、全く虚構の事実の創作によって作られるものではありません。もともとある客観的事実(犯罪とは無関係の中立的事実、あるいは中立的事実とまでいえないにしても、主要事実とは相当な距離のある事実)をベースに、虚偽の部分をあわせて、すなわち、虚実ないまぜで作られるものです。

 自白の内容と客観的証拠が符合しているからといって、それだけで、直ちに自白の信用性が認められるものではありません。しかし、確定一審判決は、犯罪行為の核心部分の自白と客観的証拠との符合性を検討せず、周辺部分の客観的証拠との一致をもって、自白全体の信用性を認めるという誤りを犯しました。しかも供述の変遷や動機については極めて軽視したのです。

 本件において、大阪府警は、火災から約1週間後の7月30日、深夜に及ぶ事情聴取により、惠子さんらの家族の周辺事情、当日の火災状況等、大量の事実(中立的事実)を把握していました。自白が、既に明らかになっていたこれら事実の上に虚構を積み上げたものであった場合、中立的事実に合致する客観的証拠があるとしても、それはある意味当然のことであり、そうであるからといって自白全体の信用性を高めるものとは到底なり得ません。

 このような確定一審判決の判断構造の脆弱さに鑑みるとき、放火行為の核心部分の自白の信用性が動揺すれば、自白の信用性全体が揺らぎ、ひいては、確定判決の有罪認定もまた動揺せざるを得ないのです。

第3 まとめ

 本件では、有罪の確定判決を受けた惠子さんに対し、無罪を言い渡すべき明らかな証拠があることは、既に乘井弁護士が報告されたとおりです。

 特に、弘前大学大学院理工学研究科伊藤昭彦教授らの鑑定書、追加鑑定書、意見書、竹下政行弁護士らの行った自然発火実験、ガソリン流し実験等の証拠によって、自然発火の可能性が具体的かつ現実的なものであり、無視できない程度に高い可能性を有していることから、
到底証拠として採用することができず、かつ信用できないことが明らかになりました。

 本件では、極めて違法な取調べが行われ、それにより虚偽の自白が誘発されたことも詳述したとおりです。惠子さんの事件も朴さんと同じ、大阪地裁刑事15部に係属しました。間もなく実質的に始まる再審請求手続きを皆さんが見守って、正義に適う決定・判決が下されるよう、一層のご支援とご協力をお願い致します。

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