えん罪事件の真相を広め、裁判支援、在獄者の処遇改善運動をすすめています

No.88再審えん罪事件全国連絡会ニュース

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2018年 4月25日発行 No.88

鹿児島・大崎事件

3度目の再審開始決定! 福岡高裁宮崎支部、事件性を否定

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原口アヤ子さん(90歳)が誤った裁判のやり直し(再審)を求めている鹿児島・大崎事件で、福岡高裁宮崎支部(根本渉裁判長、渡邉一裁判官、諸井明仁裁判官)は3月12日、鹿児島地裁の再審開始決定を不服として検察が申し立てていた即時抗告を棄却しました。3度目の再審開始決定が出されました。

≪事故死の疑い≫

今回の決定で根本裁判長は、弁護団の提出した東京医科大学・吉田謙一教授の鑑定を新規・明白な証拠として認め、再審開始をしました。吉田鑑定は、解剖の所見と「タオルで首を絞めて殺した」という有罪判決の認定は矛盾していること、そして死因は出血性ショックによる死亡の可能性が高いことを指摘。裁判所も、鑑定をふまえ、死因について、Aさんが亡くなる当日、酔って側溝に自転車ごと転落したことによる事故死の可能性があると指摘し、殺人事件ではないと踏み込んだ判断をしています。
他方、鹿児島地裁が再審開始決定で認めた心理学鑑定(殺人についての話を聞いたという関係者供述の信用性は高くないと指摘した鑑定)については一定の前提条件の下でのものであるから、限定的意義しか認められないとしました。

≪一貫し無実主張≫

大崎事件は、いまから38年前の1979年10月、鹿児島県大崎町で、原口さんの義弟Aさんが、牛小屋の堆肥の中から遺体で発見されたものです。警察は殺人事件として捜査を開始、原口さんを主犯として、原口さんの元夫、義弟、おいの3人が、Aさんをタオルで絞殺したうえ、遺体を埋めたとしました。原口さんは一貫して無実を主張しましたが、他の3人は、警察の不当な取調べでウソの「自白」をさせられ、4人全員が有罪とされました。
原口さんは「あたいはやっちょらん。このままでは死ねない」と、再審を請求。第1次再審で、鹿児島地裁は再審開始決定(2002年)を出しましたが、検察の抗告によって高裁で再審開始は取り消されました。第3次で再び鹿児島地裁が再審開始を決定(17年)、そして今回の高裁で再審開始決定が出されました。3つの異なる裁判体で3度も再審開始決定が出されており、このことからも、有罪判決の誤りは明らかです。
再審開始決定の垂れ幕を掲げる弁護団。裁判所前で待機していた支援者からは喜びの声と拍手があがりました。

≪検察不当にも特別抗告≫

検察は、再審開始決定を不服として3月19日、不当にも最高裁に特別抗告をおこないました。国民救援会は、特別抗告に断固抗議するとともに、最高裁で一日でも早く再審開始決定を確定させるために奮闘します。
再審開始決定後、原口さんの娘・京子さんをはじめ、冤罪被害者、支援者、弁護団は連日、最高検、福岡高検などに、「3度も再審開始が認められたことを真摯に受けとめ特別抗告をするな」「原口さんは90歳、人道上からもこれ以上裁判を長引かせることは許されない」と要請しました。要請署名も7日間と短期間ながら314団体から寄せられました。

≪元気なうちに、原口さんに再審無罪を≫

再審開始決定の一報を、原口アヤ子さんは入院先の病院で聞きました。支援者から「よかったね」「おめでとう」と声がかかると、原口さんは声は出せないものの、唇が動き、反応がありました。
病院には稲留淳子さんら地元の支援者が用意した「アヤ子さんおめでとう。ようやく春が来ましたね」の横断幕。「本当に桜が咲いた思いでした。それだけに検察の特別抗告は許せません。アヤ子さんを見ていると、一刻一刻、無罪を勝ちとるために生きているんだと思います。元気なうちに再審無罪を勝ちとりたい」と稲留さんは話します。

一刻も早く、最高裁は検察の特別抗告棄却せよ!

弁護団が意見書を提出
4 月20 日、弁護団は最高裁第1小法廷(小池裕裁判長に対して、検察の特別抗告を一刻も早く特別抗告を棄却するように要請書と意見書の補充書を提出しました。
要望書では、憲法が保障する迅速な裁判を受ける権利を侵害であること。また、原口さんがもうすぐ91 歳を迎える。原口さんの奪われた人権を、生きているうちに名誉を回復するためことが司法の責任であることを強調しています。
支援者も弁護団の要望書の提出に先立って、この日最高裁に特別抗告を棄却することを要請しました。
その後、司法記者クラブで弁護団と支援者が会見を行いました。会見で森弁護団長は、「原口さんが91 歳となる6 月15 日までには棄却してほしい」と、会見で述べました。
この会見には弁護団6 人、支援者を代表して周防正行・映画監督、布川事件の桜井さんも会見に臨みました。請求人で原口さんの長女夫妻も参加して、娘さんは「最高裁には検察庁の姿勢を糺してほしい。今度こそ無罪を勝ち取りたい」と決意を表明しました。

静岡・袴田事件

検察の即時抗告棄却と特別抗告を許さないために!

「袴田巖死刑囚救援議員連盟」の総会が開かれる!


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3月19日(月)、衆議院第2議員会館で「袴田巖死刑囚救援議員連盟」の総会が約4年ぶりに開催されました。総会には、国会議員、秘書(約20名)、支援者、マスコミなど約60名が参加。
冒頭、議員連盟の塩屋立会長(自民)は挨拶のなかで、「静岡地裁の画期的な再審開始決定と同時に袴田巖さんが釈放されたことで、議員連盟の目的を一定達成することが出来た。しかし、検察の即時抗告によって、いまだに袴田さんは死刑囚のままです。司法が適正かつ公正公平な判断をおこなうように、議員連盟としてもできることを果たしていきたい」と述べました。
そして、西嶋勝彦・袴田事件弁護団長が即時抗告審の報告、袴田秀子さんが支援を訴えました。また、支援団体を代表して、浜松市民の会の寺澤事務局長が議員連盟に対して、袴田巖さんの再審無罪を勝ち取る実行委員会の要望書を提出しました。
総会は、最後に①法と証拠に基づく公正公平な司法の判断による袴田さんの再審無罪の実現、➁東京高裁が検察の即時抗告を棄却した暁には、検察が特別抗告を断念させるために全力を挙げることを趣旨とする要請決議を採択しました。

検察の即時抗告を求めて最後まで要請を!

弁護団と支援者は、袴田事件の年度内(3 月中)の決定を東京高裁(大島隆明裁判長)に求めてきましたが、4 月23 日現在も裁判所は決定の通知を明らかにしていません。
袴田巖さんの再審無罪を勝ち取る実行委員会では、検察の即時抗告を直ちに棄却することと、東京高検に対して棄却決定が出された際には特別抗告をせず、速やかに再審公判に協力することを求めて、4 月5 日に要請行動を行いました。
なお、年度内の決定を想定して3 月31 日に予定していた地元静岡市での報告集会は延期しました。あらためてご案内します。
≪次回要請行動≫
  と き 5月16日(木)
  宣伝行動 12時15分~13時(東京高裁前)
  要請行動 13時10分~13時40分(東京高裁)
  14時00分~14時30分(東京高検)

三重・名張毒ぶどう酒事件

第10 次再審開始めざす全国集会に190 人が参加!


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三重・名張毒ぶどう酒事件で、一日も早く再審を勝ちとろうと4月7日、裁判所の所在地である名古屋市で、12 都府県から190人が参加して全国支援集会が開催されました。主催は、国民救援会と再審・えん罪事件全国連絡会。
開会にあたり、国民救援会の鈴木猛事務局長が、「奥西勝さんが獄死し、その遺志を継いで再審を求める妹の岡美代子さんも88 歳と高齢です。一日も早い再審の実現にむけて支援を全国的に広げて、名古屋高裁を動かそう」とあいさつしました。
国民救援会顧問の稲生昌三さんが、体調を崩し出席できない岡さんからの「兄勝の無念さを思い、一日も早く無実、名誉の回復を願い、頑張りたいと思います。どうぞご支援をお願い申し上げます」とのメッセージを紹介しました。
弁護団から、ぶどう酒に入れた毒物(凶器)が違うこと、また王冠をつつむ封緘紙が二度貼りされ、奥西さんとは別の者が毒物を入れた可能性を示す糊鑑定について、詳しく報告しました。報告の最後に、鈴木泉弁護団長が報告に立ち、「再審を申し立てから決定まで、担当裁判官3人の顔を見なかったのは初めてで、このような裁判所の態度を改めさせるために、決め手は事件のおかしさを全国にどれだけ広がるかです」と、いっそうの支援を訴えました。
このあと袴田事件・袴田秀子さん、東住吉冤罪事件国賠・青木惠子さん、湖東記念病院人工呼吸器事件・西山美香さんが連帯のあいさつをおこない、各地から支援のとりくみが発言されました。今後の取り組みについて、国民救援会の竹崎義久中央常任委員が行動提起をおこない、全国的な支援をつよめることを呼びかけました。
最後に、「アピール」を確認し、再審・えん罪事件全国連絡会の伊賀カズミ運営委員の閉会のあいさつで終了しました。

滋賀・日野町事件

大津地裁で7月11日に決定へ!全国から支援を

故阪原弘さんの再審を求めている日野町事件で大津地裁(今井輝幸裁判長)は3月6日の三者(裁判官、検察官、弁護人)協議で、7月11日午後に再審の可否決定を出すと述べました。
1984年、滋賀県日野町の酒店経営の女性が殺され、金庫が奪われました。その犯人として阪原弘さんが逮捕され、無期懲役が確定。阪原さんは再審を求めましたが、再審請求中の201 1年に亡くなり、その遺志を継いで家族が再審を申し立てました。
第2次再審請求の審理のなかで、阪原さんの無実を証明する新しい証拠が出されました。1つは、検察が隠していた写真のネガです。有罪判決で、阪原さんが金庫の投棄現場に警察官を案内したとされました。しかし、その実況見分調書で、阪原弘さんが現場へ案内したとされる写真が、実は案内後の写真と入れ替えられていたことが判明し、阪原さんが自発的に案内したものではなかったことが明らかになりました。
また、東京医科大学の吉田謙一教授の鑑定によって、遺体の損傷状況と阪原さんの自白(殺害方法)とは矛盾することも明らかになりました。
〈要請先〉〒520―0044 大津市京町3―1―2 大津地裁 今井輝幸裁判長

日野町事件支援野田淳子コンサート

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野田淳子さん(写真)は、大阪拘置所で阪原弘さんと面会し、「父へ」を作詞・作曲、各地で歌って支援をしてきました。日野町事件は、いよいよ7 月11 日に大津地裁で再審開始か否かの決定が出されます。再審開始決定への思いをこめてのコンサート。ご参加をお願いします。

友情出演

◇桜井昌司さん
◇SUN-DYU(サン・デュー)さん
泉大津コンビニ窃盗えん罪事件当事者。窃盗の刑事事件で無罪判決確定。
大阪で冤罪撲滅ライブ展開中。
 と き 5月12日(土)午後1時開場:1時30分開演
 ところ 日野町わたむきホール滋賀県蒲生郡日野町船尾1661
      電話0748-53-3233
 参加協力券:1000円
 主催:日野町事件支援野田淳子コンサート実行委員会
    滋賀県蒲生郡日野町大窪851 長谷川信夫方気付
    ☎ 0478-52-4348
 ※参加申込は、上記もしくは滋賀県本部までお申し込みください。 ☎ 077-521-2129

栃木・今市事件

勝又さん取調べ状況を証言 無実より鮮明に

東京高裁6月に最終弁論、結審へ

小学1年の女児が山中で遺体となって見つかり、事件から8年後に別件逮捕の末に勝又拓哉さんが殺人罪で起訴された栃木・今市事件。控訴審第7回公判が3月29日、東京高裁(藤井敏明裁判長)で開かれ、勝又さんへの被告人質問がおこなわれました。
勝又さんは、検察側が犯人性を示す証拠だと主張する、勾留中に母親宛てに送った手紙について説明。「自分で引き起こした事件でお母さんやみんなに迷惑をかけてしまい、本当にごめんなさい」とする内容は、「女児殺害」に関してではなく、自白調書にサインしたことに対する謝罪だと説明しました。「検事から『サインしたら犯人で間違いない』と言われた。決めつけられ、もう犯人になるしかないと思った」と涙ながらに語り、自白に追い込まれていった厳しい取調べの状況を生々しく述べました。

≪訴因変更許可 公平さに疑問≫

つづいて、犯行場所と日時を特定せず幅を広げる、検察の訴因変更の請求に対し、裁判所が変更を許可しました。弁護側は、「裁判員裁判で争点は一審で詰めに詰められており、控訴審で1 年半以上が経過した時点で訴因が変更されるなら、被告人・弁護側の防御権の侵害になる」「憲法が保障する迅速で公平な裁判を受ける権利の侵害だ」と強く反論しましたが、藤井裁判長は「一審では訴因変更の必要性が看過されていた。訴因変更後も弁護側主張の全体構造は変わらない」、「訴因追加で弁護内容に実質的な変更が生じるとは考えられない」と述べて変更を認めました。
これにより、検察が主張していた殺害場所が「茨城県常陸大宮市の林道」から「栃木県か茨城県内とその周辺」に拡大し、犯行日時は「2005年12月2日午前4時ごろ」から「(下校中の被害者が同級生と別れたとされる)1日午後2時38分ごろから2日午前4時ごろ」までの幅に広げられました。
勝又被告は、変更後の起訴内容について「違います。殺していません」と、あらためて無実を主張しました。
次回公判は6月8日に行われ、弁護側と検察側がそれぞれ意見を述べ、結審する見込みです。
* *
一審・宇都宮地裁の裁判員裁判では、勝又さんと犯行を結びつける証拠はなく、勝又さんが捜査段階で「被害者を林道に立たせ、右肩を押さえて胸などを6~7秒で10回刺した」などと述べた自白の信用性などを認め、無期懲役の有罪判決としました。しかし、昨年10月から始まった東京高裁の控訴審で、法医学者の証人尋問を通じて「被害者はかなり出血したはずなのに、現場に残された血痕が少ない」ことなどが明らかにされ、自白と現場の客観的状況証拠に矛盾が生じ、一審の有罪判決が根拠とした自白の信用性が基本的部分で崩壊してきました。勝又さんを守る会では、「控訴審の審理を通じて、勝又さんの無実はいっそう明らかになった。無罪判決に向けて、署名をはじめ全国から支援を集中してほしい」と呼びかけています。
 〈要請先〉〒100―8933 千代田区霞が関1―1―4 東京高裁・藤井敏明裁判長

愛知・えん罪豊川幼児殺人事件

裁判所が請求人・田邊さんに意見書を求める!

「えん罪豊川幼児殺人事件 田邉さんを守る会」 事務局長 渡辺達郎

2月26 日、国民救援会大分県本部から送っていただいている「田邉さんとの面会記」が、ファックスで届きました。「面会記」には、名古屋高等裁判所刑事第1部の山口裕之裁判長から大分刑務所の田邉雅樹さんに、「再審についての意見書」を4月19 日までに提出するようにとの連絡が来ていたことを知りました。
その後、田邉さんから届いた3月6日付けの手紙にも同様のことが書かれていました。山口裕之裁判長は、「名張毒ぶどう酒事件」の第10 次再審請求に際して、新証拠を科学的に吟味することをせず、弁護団と顔を合わせることを一度もしないで請求を棄却した裁判官です。当然のことながら「これはまずい」という不安がよぎりました。
田邉さんは、2016 年7月15 日に再審請求をしました。裁判所は、11 月に弁護団が要請した三者協議について「時期尚早」ということで放置し、その後も三者協議は開かれていません。再審請求時に弁護団が出した新証拠に対しては、翌2017 年3月末になって初めて検察からの意見書が出されてきました。意見の多くは、証拠の新規性に問題があるというものです。弁護団はこの意見書に対する反論書の作成と、更なる新証拠の提出に努力を重ね、新たに提出した証拠に関わる専門家の鑑定も依頼して意見書を書いていただいたりしています。ここまで何もしてこなかった裁判所が、今、田邉さんに意見書の提出」を求めてきたのです。再審の可否の決定が近いことは間違いないと思います。早ければ5月のGW明けにも決定が出るかも知れないと考えている人もいます。
弁護団は、改めて三者協議を申し入れ、鑑定人などの証人尋問も要請しています。さらに、4月19日までに間に合わせようと新証拠の補充書も準備しています。「守る会」も、皆様から頂戴した署名(累計で1万筆を超えました。ご協力、有り難うございます。)を裁判所に提出する都度、再審の可否の決定に当たっては新証拠にしっかり目を向けることや、是非とも事件の現場検証をおこなうことなどを要請してきました。私たちは、きちんとした事実調べをおこなわないまま棄却決定は許されるものではないと考えています。刑事訴訟法の第1条には、「個人の基本的人権の保障」を完全に保ちながら「事案の真相を明らかに」することがその「目的」として掲げられています。この考え方に沿うならば、真相を明らかにするに際して「疑わしきは被告人の利益に」を保障しなければならない筈です。言い換えれば、真相を明らかにする努力を怠ることで不利益を生じさせることは絶対に許されないことなのです。
私たちは、名古屋高裁のこの動きに対し、ハガキの集中を呼びかけています。更に4月19 日には午前11 時30 分から、名古屋高裁前で「公正な事実調べを求める裁判所前行動」も行いました。
現時点では、裁判所がどのような決定をくだすのかは分かりません。ただ私たちとしては、田邉さんを支援する立場から、できるだけのことはしておこうと考えています。

滋賀・湖東記念病院人工呼吸器事件

大阪高裁の画期的な再審開始決定(講演録)

2018.2.16 彦根勤労福祉会館にて
弁護団報告 井戸謙一(主任弁護人)
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1 はじめに

井戸でございます。よろしくお願いします。(大きな拍手)
皆様のご支援もあって大阪高裁で再審開始決定を勝ちとることが出来ました。再審開始決定をとるというのは、本当に難しいんです。こういう形で結実して本当にうれしく思います。今日は、この画期的な大阪高裁の再審開始決定のポイントについて、パワーポイントを使って報告します。
この事件に最初に出会った平成24年の5月でした。お父さんが私の事務所に来て、娘の再審事件をやってほしいという依頼をされた。お引き受けして9月に申立てをしたんですが、その頃は支援する方もいなくてご両親だけで世間に訴えておられた、孤立無援の状態でした。その後、伊藤先生たち、恩師の方々が「支える会」をつくっていただき、国民救援会が正式な支援を決定していただきました。今日は、マスコミの方々がお見えですけども、決定は大きく報道していただきました。私がこの事件に関わった当初は、湖東記念病院事件とか西山さんとかいっても知っている人はほとんどいなかったですけれども、いまはそういう話しをすると「あぁ、あの事件ね」「あぁ、あの人ね」というふうに多くの人が反応してくれる。この事件の事が社会に広く知られるようになりました。そして、多くの人がこの事件はえん罪だと、西山さんは無実だと思っていただける状況になってきました。それが裁判所を動かしたんだと思います。みなさんのお力がこういう形に結実したんだと思っております。本当にありがとうございました。
今日は、この事件の一からお話しするのではなく、大阪高裁決定がどういう決定だったのか、それから検事はいったい何を主張して特別抗告したのか、というお話しをさせていただきたいと思います。

2 大阪高裁・再審開始決定の意義

私は、決定の日、長浜の裁判所でまったく同じ時間に別の事件の裁判がありまして、大阪高裁に行くことができませんでした。だから、西山さんが決定内容を知ったときの様子は私は知らないんですけれども、あとで山崎弁護士から聞いたところによると、再審開始だということが知って彼女は廊下の端でうずくまって、大粒の涙を流していたそうです。それだけ万感胸に迫るものがあったんだなと思いました。この段階では(再審開始決定の瞬間の画像示す)ニコニコといい笑顔で笑っていますけれども。
担当裁判官はこの三名です(画像示す)。裁判長は後藤眞理子さん、右陪席というナンバー2の人が杉田友宏さん、一番若手が酒井康夫さん。この杉田裁判官が主任の裁判官で、基本的に杉田裁判官が決定を書いて後藤裁判長がそれに手を入れて完成させる形で作ったんだと思います。さすがに大阪高裁ですから皆さん大ベテランですね。後藤眞理子さんは司法研修所35期。じつは私は司法修習31期です。後藤裁判長は4期後輩なんです。そういうと私の年が分かってしまうのですが(笑)、あまり言いたくないんですが裁判官キャリア30数年です。杉田裁判官も30年以上、酒井裁判官が約30年という大ベテラン裁判官ばかりです。裁判所から、決定を12月20日に出すという通知がありました。私は、決定が出るときには大阪高裁に行きたいと思っていたんですけれども、1 2月20日は、先ほど言ったようにこの日に別な裁判が入っていて、決定日を延ばしてくれと頼んだんです。ところが、裁判所は12月20日は絶対に変えられないといったんです。なんでこんなに頑ななのかなと思ったんです。実はこの日、後藤裁判長は東京高裁に転勤の辞令が出て大阪高裁勤務の最終日だったことをあとで知りました。この翌日だったら、この決定を出せなかったんです。
後藤眞理子さんという方は、エリート裁判官です。この杉田さんと酒井さんという方は大阪周辺の裁判所を回っているまあ普通の裁判官です(笑)。私も普通の裁判官でした。後藤さんは、最高裁の調査官をやり、司法研修所の教官をやり、そして大阪高裁の裁判長になって、今度は東京高裁の裁判長です。東京高裁は刑事部だけで12部あるんですけど、女性の裁判長は唯一です。後藤さんは、ずっと東京中心に動いてきたエリート裁判官です。
狭き門だといわれていた再審事件で、去年は湖東記念病院事件以外にも2件再審開始決定が出ました。1件は、鹿児島地裁で大崎事件、もう1件は、福岡高裁で熊本の松橋事件です。それらを出した裁判長は、普通の裁判官です。だけど今回の大阪高裁決定は、エリート裁判長(後藤氏)が出した。いまの最高裁から刑事裁判官として、高く評価されている人が再審開始決定を出したということに意味があると思います。全国の裁判官たちも、再審に対する考え方の流れが変わってきた。地方の、ちょっと変わった裁判官が再審開始決定を出したということではなくて、エリート裁判官まで出すようになったという認識を持ちますから。全国の裁判所にたくさんの再審事件が係属していますけど、その流れを変えうる決定だと思います。

3 大阪高裁定の内容

(1) 再審審理の構造
決定の内容を紹介します。再審に対する決定は、何を判断するのかということですが、刑訴法435条に定めている再審の理由があるかないかということを判断します。ほとんどの事件で問題となるのは第435 条6 号です。6号には、「有罪の言い渡しを受けたものに対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときに再審を開始します」と書いてあるんですね。この要件を満たすかどうかを判断するわけです。この要件を分析するとですね、無罪を言い渡すべき明らかな証拠を弁護側は提出しなければいけない。ひと言でいうと「明白性」です。それからもうひとつはそれが新たに発見されたものである必要がある。これを「新規性」といいます。弁護側が提出した証拠に新規性と明白性が備わっているかどうか、それを裁判所は判断するんですね。両方とも認めたら再審開始決定をする、そういう構造なんです。新規性というのはわりと簡単です。西山さんの場合は大津地裁、大阪高裁、最高裁と3つ裁判があって、これで有罪が確定しました。第1次再審請求でも大津地裁、大阪高裁、最高裁、3つの裁判がありました。これらで出た証拠ではない新たな証拠が必要なんです。それが「新規性」です。次に「明白性」とは何なのか。これについては、1975年に最高裁が出した「白鳥決定」と呼ばれる決定があります。北海道で警察官が射殺されたという事件ですが、この再審事件で、最高裁は、「その証拠が確定事件の審理中に提出されていたとするならば、そのような事実認定に達していただろうか、すなわち、その被告人が犯人だという判断に達していただろうかという観点から新証拠と旧証拠を総合的に評価して判断しなさい、このときに再審制度においても疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の鉄則が適用される」といったんです。それまでは、新しい証拠でその人の無実が証明されなければいけないという考え方が強かったんです。そうなると、再審開始はほとんど不可能に近いですね。しかし、白鳥決定は、新規証拠で無実を証明する必要はありません。新規証拠と旧証拠と併せて評価したときに、合理的な疑い、この人は犯人ではないんじゃないかという合理的な疑いがあれば再審を開始するんだという判断を示しました。新規証拠によって確定判決に合理的な疑いが生じることが「明白性」であるということを示しました。これ自体は正しい考え方だと思います。しかし、せっかく最高裁が正しい考え方を示したのに、その後の下級審では、再審の扉は容易には開かれませんでした。なぜか。下級審決定は、一般論としては正しいことをいいながら、具体的な判断の過程では、この総合評価というのをしないんです。この事件の1審もそうなんですけれども、こちらが新しい無罪の証拠をいくつも出すんだけれども、いやそれだけだと無罪とはいい切れないといって、ひとつひとつ個別につぶしていくんですね。最高裁は、新証拠と旧証拠とを併せて、全体として合理的な疑いが生じるかどうかを判断しろと言っているのに、総合評価をしないで個別につぶしていく、そういう考え方で決定することが多い(限定的再評価)。
したがって、白鳥決定を建前だけじゃなくて実質化させることができるかどうかということが、ひとつの大きなポイントなんです。
(2) 確定判決の論理構造
この事件の確定判決はどういう論理構成だったか。1審の大津地裁は、亡くなったTさんの死因は何かという問題を立てています。そして、Tさんの死因は「酸素供給途絶による低酸素状態による急性の心停止である」と認定しました。これは解剖した西医師の鑑定の結論を採用したものです。西鑑定を分析すると、まず急性の心停止であるという判断がひとつ。それから急性の心停止の原因が、酸素供給途絶による低酸素状態であるというふたつ目の判断があります。裁判所は西鑑定のとおり認定しました。次に、酸素供給が途絶ということは人工呼吸器を装着していたのですから人工呼吸器からの酸素供給が途絶したということになる。じゃその原因は何だろうかという問題になります。考えられるのは、機械の誤作動、それから何者かの過失、それから何者かの故意によるチューブの外し、その3つである。警察が機械の鑑定をして機械に問題がなかったことを確認しているので、機械の誤作動の可能性は否定できる。じゃ何者かの過失、うっかりだったのか。何者かがうっかりチューブを外したらアラームが鳴るはずなんです。だけど、アラームは鳴らなかった。だから何者かの過失ではない。すると何者かが故意にチューブを外して、アラームが鳴らないように工作したということしか考えられない。このように結論付けています。
Tさんが亡くなった日、早朝の4時すぎという時間帯にあの病棟でチューブを故意に外すことができたのは誰か。それは西山美香しかいない。したがって、西山が犯人である。これが確定判決の論理です。確定判決の論理の基礎に、「死因が酸素供給の途絶による低酸素状態による急性の心停止である」という認定がある。これがひっくり返るとすべてがひっくり返るのです。
(3) 大阪高裁の判断
これについて、高裁の決定はどういっているか。まず急死といえるかどうか、これについては、急死といえると判断してします。次に急死の原因が酸素供給途絶による低酸素状態であると言えるか。これは、西鑑定が信用できるかどうかということに帰着するのですが、じつは鑑定書にはですね、西医師が間違った情報を得ていたということが書かれている。即ち、心肺停止状態にあることが発見された時にチューブが外れていたという情報を西医師は得ていたんです。
しかし、現実にはチューブは外れていませんでした。少なくとも、外れていたという証拠はありません。西医師は、解剖所見から急死であるということは言えたけれども、急死の原因はわからなかったのです。発見されたときにチューブが外れていたという虚偽の情報に基づいて、酸素供給途絶による低酸素状態が急死の原因だと鑑定したのです。大阪高裁は、確定判決の鑑定人は虚偽の情報を併せて死因を判断した可能性がある、だからその結論をそのまま信用できない、慎重に検討する必要があるといいました。
そして、弁護側が提出した新証拠では、Tさんの死因が酸素供給途絶による低酸素状態か、致死性不整脈かは解剖所見からは判定できないということがいえると判断しました。この点については、私たちいろんなお医者さんに意見を聞きました。その結論は、「分からない」ということでした。致死性不整脈は、モニターを付けていれば分かるんですが、Tさんは付けていませんでした。だから、急に心臓が止まって亡くなったのは、不整脈を起こしたのか、なんらの原因で呼吸ができなくなって心臓が止まったのか、それはあとでいくら遺体を解剖しても分からないというのです。
次に、解剖時、T さんの血中カリウムイオン濃度が低かったという問題があります。低ければ致死性不整脈を起こしやすいのです。Tさんが低カリウムによる致死性不整脈で死亡した可能性もある。それから仮に低カリウムがなかったとしても半年間ずっと植物状態で寝ていた人で、全身状態がどんどん衰弱していますから、それ以外の原因で不整脈が起こって死亡した可能性もある、裁判所はそう判断しました。解剖しても臓器に急死を示す痕跡が残らない場合に「直接の死因が致死性不整脈である割合は、死因として無視できるほど小さくない」という、非常に控えめで慎重ないい方をしています。
弁護団が提出した証拠では、急死したときに呼吸器の関係で急死した場合と不整脈で急死した場合がありますが、データでは致死性不整脈の割合が高いんです。したがって、死因が分からないときに原因が致死性不整脈であるという可能性はかなりあります。裁判所のいい方としては死因として無視できるほど小さなものではない、本件においてはTさんの死因が致死性不整脈である可能性は無視できるほど小さくないという非常に慎重な言い方をしています。
これだけで決着つけてもよかったと思うんですけど、裁判所はこのあと自白の内容の検討に入っています。西山さんは自分でチューブを抜いたと自白してしまったわけですから、その自白の信用性が高いのなら、発見時にはチューブがつながっていたとしても一時期は外れていたことになるから、それによる酸素供給の途絶による低酸素状態による死亡という因果関係があり得るので、自白の信用性を検討すると位置づけて検討しました。
自白の信用性について、裁判所の評価はこうです。自白の内容が激しく変転している。Tさんの死亡に、請求人である西山さんがどういうふうに関与したのか、その有無、程度、アラームが鳴り続けたのかどうか、人工呼吸器の管を外したのか、外れたのかなど多数の点で目まぐるしく変遷している。この変遷状況のみを取り上げても、そのなかから真の体験にもとづく供述を選別するのは困難である。そのなかでも、とくに裁判所が取り上げたのがアラーム無効期間の延長方法をいつ知ったのかについてです。この「アラームの無効期間の延長方法」というのは裁判所の造語で、ぼくは「消音状態継続機能」と呼んでいるのですけど、要するにこういうことです。消音ボタンを押したらアラームが止まります。1分経過したらまた鳴り出すのです。しかし1分経過前に消音ボタンを押すと、押したときから1分間消音状態が続く、そのことを「アラームの無効期間の延長方法」と表現しています。この事件は計画的犯行だとされているのですが、そのためには、アラームを鳴らさないで犯行をするということが重要なポイントになります。アラームを鳴らさない方法を事前に知っていて、計画どおり犯行をしましたということでないと辻褄が合わないんです。この点について、西山さんが起訴される直前の平成16年7月23日、24日に作られた警察官の調書では、この「アラーム無効期間の延長方法」は犯行以前から知っていましたということになっています。だけどどうして知ったかということは何も説明されていないのです。看護師は、この機能について誰一人知りません。日常業務で使う必要がないのです。人工呼吸器に触れることさえ許されていない看護助手が何故知っていたかは大きな問題なのに、そのことが説明されていない。
そして、その翌日の7月25日に作られた検察官調書では、事前には知らなかったとなっていて、警察官の調書とまったく違います。事前には知らなかったけど、たまたま1分経過前に消音ボタンを押したら、その後もならない状態が続いたので、その後も同じように1分経過前に消音ボタンを押して、アラームを鳴らさないで殺害したというストーリーになっています。ところが、この調書では、最初に消音ボタンを押してから、頭のなかで1、2、3、4と数えたことになっています。そして、60が経過する前にたまたま押しましたとなっている。
裁判所は、この点が自白の枢要部分だと言いました。犯人であれば「アラーム無効期間の延長方法」を何故知ったかについて虚偽を述べる必要性がない。体験した供述であればこの点が変遷するというのは考え難い。その上で、裁判所はこう言っています。「アラームの無効期間の延長方法」をもし知らなかったとしたら、アラームが1分間経過したらピーと鳴ってそれをまた止めなければいけないから何回かアラームが鳴ってしまうわけです。
しかし計画的犯行ですから、何回かアラームを鳴らして殺害しようと思ったというのは、そもそも自白として不自然です。では「アラーム無効期間の延長方法」を知っていたとすれば、看護師も知らないことをなぜ看護助手である西山さんがどうして知っていたのかということが問題になってきます。警察官の調書では、これが説明されていない。検察官の調書では、事前に知らなかった、その場で分かったということですから、事前に知っていた必要はなくなるわけだけれども、ではなぜ最初から数を数えたのか、その説明がありません。最初から1、2、と数えるということは、60秒経過前に押さなければいけないと、考えていたから数えるわけでしょう。もし、「アラーム無効期間の延長方法」を事前に知らなかったら、1分経過後のアラーム音が鳴ったら、また消音ボタンを押そうと考えるだけですから、自分で1、2、と数える必要はないです。このことは致命的な矛盾なんです。そのことを裁判所は指摘して、結局この点について警察官、検察官から誘導があって、西山さんはこれに迎合して供述したにすぎないと判断しました。
それ以外の自白の信用性の問題点については、次のように言っています。自白では、Tさんは「口をはぐはぐ、眼をぎょろぎょろ」させて非常に苦しそうな表情をして亡くなったということになっています。この内容について、確定審一審の大津地裁では、体験したものでなければ表現できないような迫真性のある供述であると高く評価されているんですけれど、大阪高裁は、このような眼や口の動き自体は想像できないほどのものではないと、一蹴しています。
次に、ではなぜ西山さんは自白したのかというのが問題となります。取調べ警察官に好意を抱いたことも一要素ですが、これは西山さん自身も、うまく説明できません。大阪高裁も、請求人西山さんが述べる自白した理由はいささか説得力が弱いといっています。しかし、記録からみると、西山さんが取調べ警察官に好意を抱いて信頼していたことは間違いがない、それから同僚の、その日当直だった第一発見者のA看護師を追いつめているとの思いがあったとの供述も荒唐無稽とまではいえない。非常に慎重ないい方ですね。そして、Y刑事自身も西山さんの供述を裏付ける供述をしています。例えば、A看護師の状況を非常に気にしていたこと、Y刑事に対する好意をもっていたこと。西山さんはこのころ精神的に動揺していたこと等ですね。こういうことは、Y刑事自身が認めているんです。それからY 刑事は、第1回の公判期日の直前に取調べ名目で拘置所に行って西山さんを取り調べました。そして、検事宛の手紙を書かせたという一幕があるわけですが、これは非常に不当なことなのです。それから、西山さんが、人につい迎合してしまうという性格であることも、この刑事はちゃんと把握していました。このような事実を認定しています。さらに、「アラームは鳴っていなかった」と、いくら訴えても警察官がそれを認めてくれないので、「アラームは鳴っていた」と追い込まれてA看護師の責任に結びつく供述をしてしまいます。西山さんは、そのことによってA看護婦に不利に供述したことで精神的に追い詰められ、7 月2日に精神科に自分で通っています。そのような心理的な圧力もあるなかで、最終的に処分の重大性に思い至らないまま取調べ刑事との関係を維持しようとして、故意の殺害という虚偽の自白をして、その後は弁護人も信用しきることができないまま、自白を維持したと考えられなくはないと判断しました。
本件では、警察官から殺害したんだろうと追及されていないのに、西山さんは、故意にチューブを抜きましたと供述してしまった、この供述に至る「自発性」が確定審一審の大津地裁が自白の信用性を高く評価した一番のポイントなんですが、この「自発性」の点も自白の信用性があることを決定づける事情とまでは評価できないと、大阪高裁決定は判断しました。
結論として、Tさんは不整脈により死亡したのではなく、酸素供給の途絶状態が生じたために死亡したものであることが合理的な疑いなく認められるとまでは評価できない、不整脈によって死亡した可能性があるということです。西鑑定の証明力は減殺された。Tさんが自然死したという、そういう合理的な疑いが新証拠によって証明された。その合理的な疑いが生じた以上は、明白性を認めて再審を開始しなければいけないので、この明白性を否定した原決定の判断は是認できないというのが大阪高裁の結論です。

4 検察の特別抗告

(1) 特別抗告審について

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12月25日、大阪高検は最高裁に特別抗告しました。いま最高裁の第2小法廷に係属しています。第2小法廷の裁判官は(映像示す)このような方ですね。最高裁長官の大谷直人さんもいます。最高裁判事は全部で15人ですが、さらに第1、第2、第3と3つの小法廷があって、裁判官5人で各小法廷が構成されています。現在、第2小法廷には大谷直人最高裁長官も配属されています。一応、最高裁長官もどこかの小法廷には配属されますが、司法行政の仕事ばかりするので、原則として個別事件は担当しません。だから、ほかの第1小法廷、第3小法廷の事件は裁判官5人が担当しますが、最高裁長官がいる第2小法廷では、残りの4人の裁判官が事件を担当します。現在、第2 小法廷の裁判官のメンバーは、鬼丸かおるさん、この人は弁護士出身です。弁護士から最高裁判事になった人です。山本庸幸さん、この人は行政官です。元内閣法制局長官。それから菅野博之さん、この人は裁判官です。もう一人は現在空席です。じつは小貫芳信さんという元検事の最高裁判事がいたんですが、この方が昨年末に急に亡くなったんです。まだ、後任は決まっていません。だから、第2小法廷としては本格的にこの事件の検討に入れない状況なのかもしれません。最高裁長官は関与しませんから残りの4人で審理しなければいけない、そのうち一人が決まってないということですから、普通よりは時間がかかるかもしれません。
(2) 検事の主張
検事は特別抗告で何を主張しているのか。
ア. ひとつは「新規性」についての判例違反があるということです。
弁護団が提出した証拠は、お医者さんの意見書や鑑定書です。大阪高裁は、これが新規証拠であることを問題なく認めました。しかし検事は、新鑑定について新規性が認められるためには、①新たな経験則に基づく鑑定であるか、②鑑定の資料とされたものが新規であるか、③従前鑑定で十分検討されていない部分を検討したものであることが必要であると主張しています。本件では、①②には当たらないし、死因が不整脈であるか否かは西鑑定でも検討の対象としたうえで結論が出ているから、③にも当たらないというわけです。
検事が主張するように、鑑定類についての新規性を狭く解釈すべきだと主張している学者がいることはいます。しかし、それは多数説ではないし、まして判例違反だというのは言いがかりに等しい。鑑定類について、新規性を広く認めている裁判例は多数あります。
イ. 次に、検事が主張していることは、「明白性」についての判断が判例違反だということです。さきほど説明をしましたけども、新規証拠と旧証拠を合せて全体的に再評価して合理的な疑いがあるかどうかで明白性の有無を判断するというのが白鳥決定の考え方です。ところが、検事は、再評価するのは、新証拠が影響を及ぼす可能性のある旧証拠の範囲に限定されると主張しているのです。弁護側が出した新証拠が死因についての医者の意見書や鑑定書ですから、旧証拠のうちこれに関連する証拠、例えば西鑑定を再評価するのにいいけれども、大阪高裁決定は、新証拠と関係のない自白を再評価している、これが判例違反だといいます。
しかし、白鳥決定がいっているのは、新証拠があったときにそれと今までの旧証拠全体を評価して、そして合理的な疑いが残るかどうかを判断しろということで、新証拠と直接関連する旧証拠だけを再評価しろといっているのではない。確かに検事のいうように主張している学者もいるんですが、決してそれは多数説ではないし、まして判例違反などではありません。これも言いがかりに等しい。
ウ. 三つ目に検事が主張していることは、死因が致死性不整脈死である可能性はないというものです。まず低カリウムについては、根拠にならない。カリウム値は死後変化するから、死後1 日が経過した解剖時のカリウム値を前提に議論しても意味がない。そして、仮にT氏が生前に低カリウムだったとすれば、酸素供給の途絶がまずあって、これによって脳が酸素欠乏になり、カテコールアミンが分泌されて低カリウムになったと考えられると主張しています。これは今までなかった新主張です。検事は、高裁では、救命措置のときに投与した薬剤の影響だと主張していたのです。今回まったく新たなことをいいだしたんですね。しかし、あまり詳しいことは言っていなくて、詳細については解剖医の意見書を提出すると言っています。
また、大阪高裁は、仮に低カリウムでなくても致死性不整脈の可能性があると認めたのですが、検事は、これについて、その場合の致死性不整脈の原因は酸素供給途絶としか考えられないと主張しています。しかし、これについても、詳細は解剖医の意見書を提出するとなっています。
ところが、この解剖医の意見書がまだ提出されていません。弁護側は、協力してくれている医師の方々に、検事から解剖医の意見書が出たら反論を書いてくださいとお願いしていて、手ぐすねを引いて待っているのですが、まだ提出されていません。
エ. 次に検事は、西山さんの自白は信用性が高いと主張しています。任意の取り調べの過程で請求人は自白した、取調官に好意を抱いた迎合的な性格であっても、してもいない殺人を自白するのは考えられない等、いままでの主張の繰り返しです。「アラーム無効期間の延長方法」については警察に予備知識はなく、西山さんが自分で言い出したことだと主張しています。このことを詳しく説明します。確かに文書の上では、警察が「アラーム無効期間延長方法」を知ったのは7 月13日であり、西山さんはその前の7月12日に「アラーム無効期間の延長方法」について供述しています。7月13日、警察は、湖東記念病院の臨床工学技士を警察に呼んで、人工呼吸器の機能について事情聴取しており、ここで初めて、「アラーム無効期間の延長方法」について説明させています。
しかし、実は警察は、7月10日に湖東記念病院へ出向いて、人工呼吸器の実況見分をして、その臨床工学技士から詳細な事情を聴取しています。実況見分調書には、「アラーム無効期間の延長方法」についての記述はありません。しかし、そのときに「アラーム無効期間の延長方法」について説明を受けた可能性は十分あります。敢えて、そのことを実況見分調書に書かないで、西山さんの自白をとってから、技師の供述調書の形式で証拠化した疑いが十分です。
オ. 最後に検事が主張していることは、即時抗告審の審理の範囲の問題です。検事は、即時抗告審は、原審の大津地裁の判断が妥当か否かという点だけを判断するべきであって、大津地裁決定で争点にされていなかった致死性不整脈死の可能性の問題を判断するのは、即時抗告審の審理の範囲を超えているというのです。そして、自白の信用性について検事に意見を述べる機会を与えなかったということも主張しています。裁判官は確かに、双方に対し、致死性不整脈の点についての立証の補充を求めましたが、自白の信用性の立証について意見を求めませんでした。しかし、自白の信用性については、原審から双方がさんざん主張してきたことです。今になって、大阪高裁が求めなかったから主張できなかったというのは、甘えているとしかいいようがありません。

5 最後に

検事の特別抗告理由は、以上のような内容です。これに対する最高裁の決定がいつころ出るのか、分かりません。最高裁では三者協議が開かれず、双方から出てきた書面だけで最高裁が決定します。最高裁の審理は、昔はものすごく時間かかったんですが、最近は早くなっています。早ければ特別抗告が申し立てられてから半年ぐらいで出るんではないかなと思っているんですが、さきほどいったように、まだ裁判官が揃わないという状況もあるので、もう少しかかるかもしれません。検事の主張は、こじつけ的な主張が多くて、十分反論できる内容です。最高裁が大阪高裁の決定を維持する可能性は充分あると思います。すでに協力してくれているお医者さんからは、意見をいただいています。検事からの意見書が出れば、こちらも本格的な反論の意見書を出す予定です。最高裁でも、いい結果が十分期待ができると考えています。今後とも更なる支援をお願いしたいと思います。(大きな拍手)     

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第28回 裁判勝利をめざす全国交流集会

 日 時:5月26日(土)午後1時~27日(日)午後0時30分まで
 場 所:東京・平和と労働センター全労連会館(文京区湯島2-4-4、JR御茶ノ水駅から徒歩10分)
 参加費:3,000 円(資料代、報告集代金含む)
 講 演:黒岩哲彦弁護士
 分科会:①労働事件、②冤罪・再審事件、③大衆的裁判闘争のすすめ方
 申込み:国民救援会中央本部まで
 締切り:5月17日(木)必着

今後の主な事件の日程

 4月26日 小石川事件の真相を聞く会(東京・平和と労働センター3階会議室 18時半)
 4月27日 熊本・松橋事件弁護団最高裁要請 14時(13時半最高裁南門激励行動)
 5月16日 第235 次最高裁事件統一行動 8 時15 分西門で宣伝、刑事10 時、民事11 時
 5月17日 三重・名張毒ぶどう酒事件要請行動 13時半名古屋高裁、15時 名古屋高検
 5月26日~27日 第28回裁判勝利をめざす全国交流集会(東京・全労連会館)
 6月 8日 栃木・今市事件第8回公判(論告、最終弁論、東京高裁 13時30分~)
 6月21日 最高裁係属冤罪事件支援集会(仮称) 18時半 東京・文京区民センター3A
 7月11日 日野町事件第2次再審決定日
 7月24日 布川国賠裁判口頭弁論(東京地裁103号法廷 13時半)

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お詫び 今号のニュース発行が大幅に遅れ、原稿を執筆いただいた方、 読者の方に深くお詫び申し上げます。次号は、6月末発行します。

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